KNOWLEDGE「節税第一」は間違っている?

賃貸マンション事業の基礎知識

賃貸事業に必要な経営者としての意識
固定資産税・相続税対策を前提とした経営
マンションの工法など、経営に役立つ基礎知識をご紹介します。

上手な税金対策あれこれ

 賃貸マンション建築による相続税の節税対策は、土地活用の中でも代表的なものであり、 いわゆる相続税のハウツー本でもよく紹介されています。皆様の中には、ハウスメーカー等から相続税の節税対策の手段として、 賃貸アパート・マンションの経営を提案されたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 今回は、その賃貸マンション事業による節税の仕組みとその対策における注意点についてご紹介したいと思います。

「節税第一」は間違っている?

 全体の資産のバランスを把握せずに、部分的な資産の節税だけに走ってしまうことは間違っていると思います。

「相続税はどのくらいかかるのか?」、「納税資金はどのように確保するのか?」

 また「自分の資産の種別ごとのバランスはどのような状態なのか?」、それらを把握した上で、初めて各人の目的に応じた対策というのが立てられるのだと思います。更地があるから、とりあえず賃貸住宅でも…

 …という考えは、今の時代は難しいということだけ前提として申し上げておきます。

全体の最適化のために

 これから賃貸住宅の建築による相続税の節税効果、節税の仕組みについてご紹介していきたいと思いますが、その説明に入る前に、『往々にして、この節税目的 、あるいは投資目的の賃貸住宅建築の提案が、その活用を提案されている土地単独の節税効果、採算性だけの視点であることが多い』ということを今一度、お話し ておきたいと思います。何をお伝えしたいのかと申しますと、こうした単独の土地だけにおける賃貸住宅としての採算性、節税効果だけでは、本来、その土地活用 の是非は判断できないということです。
 当たり前ですが、土地オーナーのほとんどは、その計画されている土地だけではなく、他にも不動産や金融資産等も保有しているわけであり、その資産全体を鑑 みた上で、個別の土地の活用も判断していかなければ、その提案の本来の目的もきちんと達成されるか分かりません。
 ですから、これからご紹介する節税の方法を本当に効果的に機能させるためには、自分の資産の現況を把握することは大前提になるわけです。現況を把握するこ とによって、現状の資産状況の問題点等が明らかになり、課題を整理することによって効果的な対策が立てられるようになります。
 以前、本紙面にて、相続対策は、一般的に大きくは「納税資金対策」、「相続税対策」、「遺産分割対策」の3つに分けられると申し上げました。今回は、その うちの節税という視点の「相続税対策」の一つである賃貸住宅事業の節税効果についてご紹介させて頂きたいと思いますので、是非、皆様がご自身の資産状況を把 握される機会としてご活用いただければ幸いです。

相続財産の評価を下げる

 賃貸住宅事業による相続税対策の仕組みは、『相続財産の評価をさげる』というところにあります。
 まず、土地に関してですが、賃貸マンションを建てることで土地の利用形態が変わり、相続税評価額が下がります。建物の方は、相続税の評価において、家屋等は建築価格では なく、固定資産税評価額になるので評価額が下がります。
 以下に、より詳しくご説明していきたいと思います。

■ 土 地

 土地の相続税評価額は路線価によって決まってきます。路線価は公示価格に対して約80%程度です。土地が更地(青空駐車場、遊休地)の場合は、その土地の面積に路線価額をかけ た数字が相続税評価額になります。例えば、土地の面積が1000㎡、路線価が300千円/㎡であるとしますと、「1000m2×300千円/m2」で3億円となります。(土地の形状や接道の条件に よって計算方法は変わってきますが、一般的なものとして今回の計算方法を覚えておいて頂ければと存じます。)
 この設定で更地のままですと相続税評価額は3億円となりますが、ここに賃貸マンションを建築した場合はどのようになるでしょうか?その場合、土地は「貸家建付地」としての評 価となり、相続税評価額は下がります。
貸家建付地の相続税評価額は、「更地評価額×(1-借地権割合×借家権割合)」で導き出されます。したがって、今回、その土地の借地権割合が60%、借家権割合が30%であるとし ますと、「30,000万円×(1-0.6×0.3)」で24,600万円が評価額となります。(この借地権割合、借家権割合は路線価図で確認できます。路線価図は税務署でも無料で閲覧できます し、WEB上でも無料で公開されています。)
 更に、土地には「小規模宅地の評価減制度」が適用できます。これは200平方メートルまでの部分については貸付用の土地であれば50%の評価減が出来るというものです。
 これを適用した場合は、

「24,600万円×200m2/1000m2=4,920万円」
「4,920万円×50%=2,460万円」
「24,600万円-2,460万円」で22,140万円

が評価額となります。
 したがって、更地の状態と比較すると、「30,000万円-22,140万円」で7,860万円が評価減少額となっています。注意点としては、小規模宅地の評価減制度は保有する全ての宅地 に200?しか認められませんので、所有不動産が1箇所の人も10箇所の人も同じ200?までとなります。ですから、路線価が高い土地を優先して使う方が有利になるわけです。また、 居住用の宅地は50%ではなく80%の評価減となっておりますので、居住用について優先的に適用させた方が良いでしょう。尚、特例の適用面積や評価減の割合は、その用途等で変わ ってきますので、詳しくは専門家にご相談されることをおすすめします。

■ 建 物

 建物の相続税評価額は固定資産税評価額になります。 つまり、実際にかかった建築費に対して約60%程度の金額が固定資産税評価額になりますので、例えば1億円の建築費 の建物であれば、約6,000万円が相続税評価額になります。財産の形は、金融資産から不動産に変わりましたが、相続税評価額は4,000万円下がったことになります。 これが通常 の建物の相続税上の効果です。賃貸住宅の場合は、ここから更に借家権割合分(30%~40%)を評価から引くことが出来ます。したがって、6,000万円の固定資産税評価額の建物で あれば、「6,000万円×70%」で4,200万円となり、5,800万円の評価減少効果があることになるわけです。

相続財産の評価を下げる

 上記の計算例をご覧頂いても分かるように、賃貸マンションの建築により相続税は大幅に(この例では4,627万円)少なくなっています。ここまでは、「相続税対策として賃貸 マンション建築による節税の仕組み」についてご紹介してきましたが、その節税の仕組み、効果についてはご理解いただけましたでしょうか?
 しかしながら、当然、その節税効果云々だけで賃貸マンション事業を行うかどうかということは判断することは出来ないとは思います。仮にですが、「節税対策で建てた賃貸マン ションが数年たって空室だらけで収支が回らなくなってしまう」ということでは元も子もありません。
 賃貸マンション建築を判断するに当たっては、不動産賃貸事業としての中長期的な採算性も十分に検討することが必要です。
 「その賃貸事業にいくらかかるのか」、「その資金はどこから手当てするのか」、「収入・支出の見通しはどうなのか」、等々をきちんとした調査をもとに検討しなければなりま せん。賃貸事業は20年~30年に及ぶ長期の事業です。投資として長期的に安定収入を得るためには、どのようなものを建てるのか、建築後はどのように運営していくのか、というこ とを十分に検討することが必要でしょう。
 「事業上のリスクや問題点を明確にして、事業を成功させるための条件、対策」を考える。そして、事業の採算性、安全性等を鑑みて、相続対策としての賃貸事業を行うことのメ リット等も含めて総合的にご判断されれば良いと思います。

資産運用の目的は!?

 資産運用の目的・・・。それは人によって様々かと思います。ただ、一つの考えとして、資産を増やすということよりも、相続問題や経済情勢(デフレ)等の諸問題から資産を保全 していくために行うという考え方もあるかと思います。雨が降れば傘を差し、寒くなればコートを着るということと同じように、資産を守るためには資産運用も環境の変化に応じて、 適切な対処をとっていくことが必要かと思います。ただ、「この環境がどのような状態なのか」、「自分の資産状況はどうなのか」、さらに「どのような対処が必要なのか」というこ とを理解することは非常に難しいと思います。
 また、土地に関する考え方という点でも十人十色であり、「所有不動産をもっと収益を生むものにしたい」、あるいは、「財産全体が増えるのであれば所有不動産を売却して金融 資産に変えたい」、「先祖代々の土地は何とかして子供に相続させたい」などの様々なお考えを良く伺います。
 いずれにしても、所有不動産の有効活用について数多くの選択肢から決断を下すためには、自分の将来のライフプランを実現していくために「この土地はこうしたい」というポリシ ーを持つことも大事だと思います。
 しかし、このポリシーを的確に決めていくことも本当に難しいです。実際、資産状況の現状を把握するために、相続税がどの程度発生する見込みなのかということを計算するだけで も非常に難しい作業になるかと思います。ですから、将来に渡って資産を保全していくための対策という意味では早すぎるということはないと思います。今、本屋に行けば資産運用に 関する書籍も溢れています。この資産活用通信も皆様の資産運用の一助となれば幸いです。

今回のポイント

・相続対策は全体の資産状況を把握したうえでバランス良く対策を考えることが大事!
・更地に賃貸住宅を建てると、土地は貸家建付地となり相続税評価額が下がります。
・建物の評価は固定資産税評価額になり、更に借家権が引かれるため、実際の建築費に対して相続税評価額は低くなります。
・単なる節税目的だけではなく賃貸事業として中長期的に成立するか十分に検討することが大切!

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