KNOWLEDGE『物納の活用法』

賃貸マンション事業の基礎知識

賃貸事業に必要な経営者としての意識
固定資産税・相続税対策を前提とした経営
マンションの工法など、経営に役立つ基礎知識をご紹介します。

『物納の活用法』

 不動産デフレが進行している現在、相続税の物納制度が改めて注目をあつめています。 今回は前号で解説しました物納の基礎を踏まえ、この制度を具体的にどのように活用していくことが円滑な財産承継に 繋がるのかという具体的な対策についてご説明したいと思います。

『物納の活用法その1』

 まずは『物納制度』を上手に活用するための具体的な手順についてご紹介させて頂きます。 物納に関しては、正確な知識を持っていらっしゃる方は意外と少ないです。 前号に引続き、今回のご案内が皆様の健全な資産活用の一助となれば幸いです。

生前からの物納対策

 相続が発生してからでも決して遅くはありませんが、できれば推定被相続人の健在なうちに物納、あるいは、売却により納税財源とする不動産をある程度 は決めておくことが望ましいといえます。健全なときに将来の納税計画を立てることは多くのメリットがあり、結果的に相続発生後の無用なトラブルを少し でも回避することが可能となります。
 まずは物納候補地を決めるに際してのプロセスについてお話いたします。

物納候補地を決めるまでのプロセス

1,『全体財産の把握と推定相続税額を算出する』
 第一に、万が一、相続が発生したらどれくらいの相続税を納めなければいけないのかを把握する必要があります。顧問の税理士先生、あるいは、一部の金融機関、コンサルティング会社などで全体財産の概算相続税評価額および、 概算推定相続税額を算出してもらう事をおすすめします。

2,『全体財産を金融資産と不動産に分類する』
 次に全体財産を大きく「金融資産」と「不動産」に分類します。その際、金融資産は現預金などのように流動性・換金性の高いものと有価証券や保険などのよう に現預金よりも流動性の低いものとに分類します。現預金が多額にある場合は物納制度そのものの活用が出来ないため、現預金を他の資産や運用方法に組みかえることも検討しなければなりません。

3,『不動産を分類し必要性の高い順に順位付けをする。』
 不動産を種類別に分類し、自宅等のように残さなければならない不動産と、できれば残したい不動産、万が一の場合は手放してもやむを得ない不動産というように、収益性、換金性、立地などの観点や心情的な面などから総合的に勘案して、優先順位をつけます。  このように不動産を細分化し、優勢順位の低い土地、すなわち、必要性の低い土地を物納候補地とします。物納候補地を選択する際のポイントは概算相続税評価額が推定時価を上回っている土地や一般的な市場では流通しづらい土地です。例えば、広台地や変形土地、貸宅地などは比較的物納に適しているでしょう。

4,「物納候補地が物納の適格要件を充たしているかチェックする。」
 万が一のときに、物納候補地が、物納可能かどうか調査しておく必要があります。物納予定地で万が一に物納が出来なかった場合は、納税計画が大幅に くるってしまいます。調査の結果、物納の適格要件を満たしていない場合は、要件を満たすよう早めに整備しなければなりません。
 物納整備にあたっては、隣接地主から「境界に意義のない旨の確認書」を取得しなければならないという事など、自助努力に加え、隣地や借地人などの関係 者の協力が必要不可欠となりますので、早期に物納要件を満たせるよう着手し、いざというときに物納財源として機能するかどうかを把握しなければなりません。

5,『物納候補地の財産確定測量を行う』
 前述したように土地を物納する場合は隣接地主との間で「境界に意義がない旨の確認書」が必ず必要となります。また、実測面積と登記簿面積が一致していな ければ物納が認められません。面積が一致していない場合は「地積更生登記」をしなければなりませんが、地積更正登記を申請する場合、管轄の法務局によって は、隣接地主からの実印と印鑑証明書が必要となる場合がありますので、物納候補地の財産確定は相続発生後よりも関係当事者が健在のうちに進める方が、財産確 定を比較的円滑に可能となります。

生前に物納対策を講じるメリット

 物納にあたっては、測量費用、登記費用、コンサルティング会社に依頼した場合の報酬など多額の費用が発生します。しかし、この費用は残念ながら、 原則、不動産所得を計算する上での経費として認められておりません。したがって、生前に費用をかけて整備を進める事により、相続財産が減少し、それ にともない相続税が減る事から結果的に相続税を計算する上での経費となるといえるでしょう。
 また、推定相続人が複数存在する場合などは相続人それぞれが円滑に納税できるよう、早期に物納適格性の調査と整備をすすめておくことが必要です。 相続が発生し、相続人の一人でも万一物納が認められない事態が発生すると、そもそもの遺産分割を巡りトラブルになる可能性もあります。
 以上のように相続を機に必要性の少ない不動産を物納しようと考えている場合は、生前からの準備と整備が円滑な財産承継をするための大事なポイント となります。
 次回は生前の物納対策の具体的事例と応用について解説いたしますので、皆様の資産運用のご参考になればと思います。

今回のポイント

・まずは現状把握のために全体財産と推定相続税額の把握をする。
・現預金が多額にある場合は他の資産、運用方法に組み替えることも検討する。
・物納候補地を決めるために、不動産を細分化し優先順位付けをする。
・物納適格要件の調査をし、早期に整備にとりかかる。
・物納候補地の財産確定をする。

 物納は有効な納税手段の一つですが、収納されるまで何年もかかってしまうほど国の要求する条件が多くあり、 これを整備する必要があります。円滑な財産承継のためにどのようなことを考えておけばよいのでしょうか!?
今回も「物納制度」の活用による相続対策という視点でご案内していきたいと思います。

『物納の活用法その2』

 前回は生前から物納対策を講じる事の重要さとメリットについて解説しました。 今回は具体的な事例に基づいた生前の物納対策の手法について解説いたします。

同族間での財産整理と資産の組換えによる物納対策

 物納要件のひとつに、「物納可能な財産は相続財産であること」があります。すなわち推定被相続人が所有している財産でなければ物納が認められません。 したがって、推定被相続人の所有する不動産で将来残したい財産があり、推定相続人もしくは同族法人等に比較的不要な(必要性の低い)不動産がある場合等 は、生前に推定被相続人が所有する必要性の高い不動産と、同族法人等の所有する必要性の低い不動産を交換する事により結果的に同族関係者間で必要性の低 い不動産を物納に充てることが可能となります。

 このように相続を機に同族関係者間の不動産を整理する意味でも関係者間で一度、不動産の整理をし、優先順位を付けておく事が大切です。

 また、同族関係者間で交換を実行する際には、交換価格が適正な価格であることおよび、登録免許税、不動産取得税が課せられますので、実行する際には 税理士などの専門家に相談してください。

共有状態の解消と物納対策

 不動産の共有持分は物納が認められません。(共有者全員が物納する場合を除きます)すな わち推定被相続人と推定相続人とが不動産を共有関係で所有している状態で相続が発生した場合、相続した持分だけの物納は認められません。また、物納できる 財産は「相続財産でなければならない」ことから、相続人がそもそも所有していた不動産持分と相続した持分とをあわせた単独所有状態での物納も認められない ということになります。
共有財産は共有者同士の意見の統一が図りづらく管理処分が困難であるとともに、相続を重ねる事によって更に財産が細分化します。  共有状態を生前に解消する事により、将来の遺産分割や物納が円滑になります。

 この場合も交換価格が適正な価格であることおよび、登録免許税、不動産取得税が課せられますので、実行する際には税理士などの専門家に相談してください。

賃宅地の生前整備

 貸宅地は一般的に収益性が低く、換金性に乏しいという観点から比較的物納に適している財産といえます。但し、物納にあたっては賃借人(借地人)の協力 が必要不可欠となりますので、生前から整備を進める事により円滑な物納が可能となります。

■賃宅地を特納するための要件

  • 登記簿面積・実測面積・契約面積が一致していること
  • 借地境(土地境界)が確定し、境界標などの標示がされていること
  • 地代の支払いが遅延していないこと、近隣相場と比較して不当に安くないこと
  • 借地人が明確であること
  • 円滑な借地関係が継続できること
  • その他

 貸宅地の物納にあたっては以上のような要件を充たす必要があります。貸宅地は一般的に契約面積と実測面積が一致していない場合や借地の境が不明確なも のが多く見受けられます。特に実測面積と契約面積に大きな差が生じる場合などは、地代や支払済みの更新料、承諾料を巡ってトラブルになることがあります。 このような貸宅地の物納整備は相続が発生してからでも決して遅くはありませんが、このような問題は地主(貸宅地所有者である推定被相続人)が健在なうちに 整備を進め、借地人の協力が得られ物納要件が充たせる可能性の高い貸宅地と可能性の低い貸宅地を把握しておく事により円滑な納税(物納)計画がたてられます。

今回のポイント

・同族関係者間で必要性の低い土地がある場合は生前に推定被相続人と交換する。
・共有状態の土地がある場合は生前に共有状態を解消する。
・貸宅地は生前に整備する。

 「物納」とは相続税を金銭ではなく、物(金銭以外の財産)で納めることをいいます。
最近、この物納による納税が増えています。それは、「土地の時価が下がり、時価が路線価と接近、もしくは逆転しているため土地を売却して 納税するよりも物納の方が有利であること。」、「土地が売りたくても売れないということ。」、「物納した財産については譲渡が無かったものと して所得税がかからないこと」などの理由が考えられます。

『物納の活用法その3』

 前回まで、生前、すなわち相続発生前の「物納対策」について解説させていただきました。 物納制度を上手に活用し、円滑な納税をする為には生前に整備、準備をすることがポイントとなります。 今回からは相続発生した後の物納対策・活用法について解説いたします。

遺産分割と物納

 相続財産に多額の現預金が含まれている場合は、原則、金銭で相続税を納付しなければいけません。但し、金銭納付が困難であるか否かの判定は、 各相続人ごとにします。遺産分割の方法によっては一部の相続人(配偶者など)が現預金を相続し、長男や次男が現預金を相続しないことにより必要 性の低い不動産を物納によって納税に充てる事が可能となります。

換金性の低い財産の物納

 貸宅地は一般的に換金性、収益性が低く、比較的物納に適した不動産といえます。しかし、貸宅地を物納する場合は借地人の協力が必要不可欠となります ので、できれば相続発生前、相続発生した後でも早めに借地人に対する説明と協力の依頼が必要です。また、相続税評価額(物納価格)が実勢時価を上回っ ているような土地も比較的物納に適している財産といえます。

敷地の分筆と物納

 物納申請財産は、原則、相続税額(物納により納付を求める金額)に見合った価格の財産で なければいけません。すなわち土地などの場合で相続税額(物納により納付する金額)より、物納申請財産の価格(相続税評価額)が上回っている場合は、 原則、相続税額に見合うよう土地を分筆しなければいけません。
 このような場合、分筆の線引きの方法によっては物納後の残地の実質的な資産価値(換金価値)を高める事が可能となります。

継続駐車場としての物納

 賃貸駐車場を物納する場合、通常は一旦、駐車場を退去させたのち、更地としてからの収納となります。この場合、駐車場を退去させてから収納されるまでの間、駐車場収入が得られません。しかし、近隣の状況から見た駐車場の必要性やその他の事情によっては賃貸駐車場の状態での物納(国が駐車場賃貸人の地位を引き継ぐ)が認められる場合もあります。これによって物納申請から収納までの駐車場収入を確保することが可能となります。駐車場を物納用地とする場合で駐車場収入が多い場合などは、駐車場を立ち退きする前に税務署、あるいは財務省に相談してみるとよいでしょう。

ポイント

・相続財産に多額の現預金がある場合でも遺産分割の方法によっては物納が可能となる場合がある。
・貸宅地など換金性、収益性が低い不動産は比較的物納に適した財産である。
・物納申請地を分筆しなければいけない場合、分筆の方法によっては資産価値(換金価値)の高い土地を残す事が可能となる。
・駐車場を物納する場合、駐車場契約を解除せずに継続駐車場として認められる場合がある。

 「物納」とは相続税を金銭ではなく、物(金銭以外の財産)で納めることをいいます。
その方法等については、これまでお話させていただきましたが、できるだけ良い土地を残すためには相応の工夫が必要になります。 自分にとってベストの選択肢というのは簡単には分からないかと思います。 一度、どのような手段があるのかをお調べになるのも良いのではないでしょうか!?

『物納の活用法その4』

 前回に引き続き相続が発生した後の物納対策・活用法について解説いたします。 どの不動産をどのように物納するのかは納税者の判断に委ねられております。 また、一度申請した財産は納税者から変更する事は出来ませんので十分に検討したうえで物納財産を選択しなければいけません。

納税額より相続税評価額の高い土地の物納(超過物納)

  物納申請額を超える価格の財産による物納(超過物納)は原則として認められておりません。
 ただし、物納申請者において、他に物納に充てるべき財産がなく、且つ当該財産を物納する以外には納付が困難と認められる場合には物納申請額を超え 」る財産の物納を認めて差し支えないものとして取り扱われております。
 不動産(土地)の場合は、原則、納税額に見合うように分筆登記をして物納する必要があります。しかし、分筆することにより物納財産が著しく不整形地になったり、単独利用が困難な土地が生ずる場合や、反対に分筆により残る土地が同様の状態となるような事が生ずる場合には、強いて分筆せずに物納申請額を超え るような財産の物納(超過物納)も認めて差し支えない事とされています。

自用地の底地納性

  自宅など建物が建っている土地の底地部分を物納し、借地人として国から土地を借り受ける形をとることによって現状の利用形態、利用環境を崩すことなく 物納することが可能となります。
 この場合、相続税評価は自用地としての評価となりますが、物納する場合の収納価格は底地としての評価(1-借地権割合)となります。また、物納後は国に 対して地代を支払う事となります。

  以上、相続が発生した後の物納対策は、どの不動産を物納するのかという物納財産の選択はもちろん、 どのような形態で物納するかという点も非常に重要なポイントです。
専門家のアドバイスを受けながら物納したあとの財産構成等も踏まえたうえでの物納対策が必要となります。

ポイント

・財産構成と不動産の状況によっては例外的に超過物納が認められる場合がある。
・自用地の底地を物納することにより、利用形態を変えずに物納が可能となる。

Page Top